「そうか、ユキに育てられると、こういうダサイお子が育つわけだね」
ユキは人間に興味のない、むしろ嫌いな男だ。世話を請け負ったというだけでも奇跡、というレベルだ。
対象がある程度大きく育ってからだったのが幸いで、自力で生活する知恵も多少ついていたために生き延びている。
が、ゆえにその子どもは服装などテキトーだ。
通販ですませたいがために色もサイズもテキトーで、あとは安いという一点で選んだ服を着ている。
髪も伸ばしっぱなし。
「何年着てんだこの服」
洗濯しすぎて襟ぐりの伸びた、色もハゲきったTシャツ・・・耐えられない。
自分のお古を着せようかとも考えたが、サイズも趣味も違いすぎて、己の美意識が許容できるレベルの仕上がりになると思えず却下した。
「よっしゃ、クロ、買い物行こうぜ」
「はあ?行くなら一人で行けよ」
今までだって買い物は白金が一人で行っていたのだからわざわざ一緒に行く必要はないという主張は通らなかった。
「おまえの服を買うのにおまえが行かない理由はない」
服なんか頼んでない、というのも断る理由にはならなかった。
「いらないと言うなら明日から全裸で過ごせ」
「なんで?!」
「なぜならおまえのダッセェ服はパンツの一枚に至るまで全部捨てたからだッ」
「バカだろオマエ?!」
慌ててクローゼットを見に行ったが、後の祭り。
本当にすべて空だった。
なんだこの言い知れない敗北感。
「大丈夫、すべてこの白金様に任せなさい」
任せた結果、1日がかりで下着屋から靴屋まで回らされた。
服屋など何軒回ったか覚えていない。
人に会うことが苦手な黒羽は、店員に話しかけられるのはもちろん、人混みや、道で人とすれ違うことにさえもビクつく有り様だ。
それも終いにはどうにでもなれという気になる。
自分がどれほど挙動不審であろうとも白金はお構いなしだし、さっさとフォローしてしまうので気が楽になったということもある。
黒羽一人なら回れ右してしまう気後れする店にも、白金は躊躇なく入っていくし、引っ張りこむ。
「さて、この辺でクロ、これ一式着てみよう」
試着室で一式ごっそり、それこそパンツまで渡されてクラリとする。
「なんでパンツまで!?」
「旧制とはここですべて決別して、新しい自分を生きるためです」
真面目くさった言い回しをするが、要は白金が気に入らない“ダサイ服”はすべて処分したい、というそれだけだ。
「店の了解は得てるから、気がねなくさっさと着替えなさい」
もはや抵抗する気力も失せて、言われるままに着替える。
脱いだ服は右から左へ、即ゴミ箱行きだ。
長年着古した愛着もそれなりに感じたが、そもそも着るものへのこだわりも執着もないので、感慨も一瞬だった。
それになんだかいろいろ諦めた。
着るものへのこだわりと言えるようなものは、強いて言えば肌の露出を避けたいくらいで・・・それも特に注文したわけでもないのにクリアされている。今はそう寒い季節でもないのに、だ。
ということは、お見通しってことかよ、となんだかしゃくにさわる。
そんなこんなで、いっそうむくれた顔で試着室から出てきた黒羽たが、白金はまったくお構いなしでさっさと会計を済ませて店員と話を弾ませている。
融通の効くほど馴染みの店なのだろうが、こういう社交性は無駄に高いたと感心する。
オマエだって他人になんてたいして興味もないくせに・・・と思うのはヒガミだ。
自分の社交性が低いのは完全に自分の責任なので、八つ当たりともいう。
「似合ってるねえ〜、さすが俺。なかなかのセンスだと思わない?」
「オレは一円たりとも払わねェからな!」
「もちろん、支払いは当然俺持ちだよ。俺の趣味だし」
意趣返しを狙うも、軽く流される。
「ちなみに、他のどの店で買ったどれと合わせても決まるという絶妙なチョイスだから!う〜ん、俺ってスタイリストの才能もあるのか。多才で困るね」
「言ってろ」